多汗症とは
多汗症とは、発汗が過剰な状態を言います。誰でも気温が高くなれば汗をかきますし、緊張すれば、程度の差こそあれ汗をかきやすいものです。これに対して、多汗症の人は、汗ばむほどの気温ではないときでも汗をかき、緊張したときの発汗量も普通より多くなります。多汗症では交感神経の興奮が異常に亢進し、手足に滴るほどの汗をかくため、日常生活にも影響が及びます。原因は「交感神経の異常興奮」が関係しています。
多汗症の症状
多汗症は黄色人種に多く、有病率に人種差が認められます。およそ10人に1人とされています。
- 手掌の汗で試験の際に問題用紙や解答用紙が濡れてしまう
- ゴム製の手袋をはめられない
- 人と握手ができない、手を繋ぐのが恥ずかしい
- 汗で衣服が濡れてシミができる
- 足底の汗で、季節を問わず靴の中が濡れてしまう
- 第三者がいる場所で靴を脱ぎたくない
多汗症では、交感神経が異常に興奮するため、血管が収縮して足底や手掌が冷たくなりがちです。
汗を書くから、体温が下がってしまう。そう考える患者様は多いですが、実際は違います。
多汗症の場合、手足が冷たいのは冷え性でも汗のせいでもなく、血流量の低下です。
選択的ETS・腰部交感神経節ブロックは、手足の血流量を改善しうる治療法です。
内服薬・外用薬とはその点でも大きな差があります。
多汗症の治療
選択的ETS
(胸部交感神経切除術)
全身麻酔が必要な「手術」です。ETSの適応があるのは、手掌と腋窩の多汗症の治療です。
選択的ETS(胸部交感神経切除術)の
メリット・特徴
- 全身麻酔:約1時間・眠っている間に終わります
- 日帰り手術
- 効果は永続
特殊な気管チューブを使用して片方の肺を虚脱させた後、脇の下と胸部を切開して3mmの胸腔鏡を挿入し、目的とする胸部の交感神経にアプローチします。2箇所切開するだけの2ポート法で、3mmのポートのため手術痕も目立ちません。手術は日帰りです
ETSには、焼却術・切除術・クリップ式などの切除方法があります。
当院で採用しているのは、T2・3・4の交通枝を離断する方法です(選択的ETS)。
腰部交感神経節ブロック
足蹠多汗症(足底多汗症)のための治療方法です。膝窩(膝の裏)にも有効です。
腰部交感神経節ブロックの
メリット・特徴
- 局所麻酔で約30分
- 片側ずつ施術します。効果は2年程度持続します。
- 日帰り手術です。
- 全身麻酔は不要です。
- アルコールブロックという方法を使用するため、術後に安静時間として2時間必要です。
- レントゲン透視下で腰椎のL2・3の交感神経節に専用の注射針を刺し、高周波による電気凝固後にアルコールブロックを実施して、交感神経を変性させます。
腰部交感神経節ブロックの費用
健康保険が適用され、3割負担で片側の日帰りで約7,500円です。
内服・外用を含めた
多汗症治療
手掌多汗症
- プロバンサイン内服
- 塩化アルミニウム(20%溶液)外用(自費診療)
- イオントフォレーシス
- ETS(胸部交感神経切除術)
足底多汗症
- プロバンサイン内服
- 塩化アルミニウム(20%溶液)外用(自費診療)
- イオントフォレーシス
- 腰部交感神経節ブロック(高周波凝固+アルコールブロック)
腋窩多汗症(脇汗)【保険適用】
- プロバンサイン内服
- ボトックス®皮内注
- エクロックゲル5%
- ラピフォートワイプ2.5%
プロバンサイン内服について
どの部位の多汗症にも使えるのが、プロバンサインという抗コリン薬を服用する方法です。
便秘や口渇などの副作用が出る場合がありますが、夏期のみ服用する人もいます。
塩化アルミニウム外用・
イオントフォレーシスについて
汗を出す管に作用して管を閉塞させ、発汗量を抑えます。副作用の危険性が少なく低リスクではありますが、リターンも少なく、可逆的で1回の効果が持続しません。効果を維持するには、治療を続ける必要があります。
塩化アルミニウム外用
イオントフォレーシス
ボトックス注射について
ボツリヌス毒素(製品名はボトックス)を注射します。効果の持続期間は4~9ヶ月です。
診察後にボトックスを発注し、ボトックスが届いたら注射します。
ボトックス注射の費用
3割負担 約31,000円
腋窩多汗症にのみ保険適応
日本の保険適用で多汗症に様々なお薬を使うことができるのは、腋窩だけです。
ボトックス注射では、50単位を片側15箇所ほど皮内注射します。交感神経から放出される神経伝達物質を抑制し、効果の持続期間は約6ヶ月です。
ボトックス注射は手掌や足底にも有効ですが、保険が適用されず自費で高額になるうえ、手掌や足底は痛覚が発達しているため、注射に相当な痛みがあります。
抗コリン外用薬
交感神経から放出されるアセチルコリンという物質の伝達を阻害する外用薬です。手掌にはアポハイドローション、腋窩にはエクロックゲルやラピフォートワイプを使用します。いずれも成分はほぼ同じですが、保険適用となる部位が異なります。